米国接触皮膚炎学会(American Contact Dermatitis Society)が発行する学術誌Dermatitisに、筆頭著者の論文「Systemic Allergic Dermatitis Induced by Nickel Leaching from a Stainless Steel Bottle Containing a Citric Acid Solution」が掲載されました。
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/17103568261474360
ステンレス鋼製の水筒でクエン酸水を日常的に摂取したことにより発症した、ニッケルによる全身性接触皮膚炎の症例報告です。精査の結果、酸性溶液によってステンレス鋼から溶出したニッケルが原因と考えられました。
日常的に使用するステンレス鋼製容器に酸性飲料を入れることが、ニッケルの曝露源となる可能性について報告したものです。
酸性飲料と金属の水筒
これまでもメーカーや各自治体から注意喚起がありましたが、先日、厚生労働省 食品安全情報の公式Xにも投稿されたことで、あらためて注目されています。
酸性の飲み物には、フルーツジュース、スポーツ飲料、クエン酸を含む飲料などがあります。こうした飲み物を金属製の容器に長時間入れておくと、容器の材質や状態によっては、金属成分が飲み物に溶け出すことがあります。
自治体からは、酸性飲料を金属製容器に長時間保管しないことや、容器の内部に傷やサビがないか確認することなどが注意点として挙げられています。
今回報告した症例では、ステンレス鋼製の水筒にクエン酸を溶かした飲料を入れ、日常的に摂取していました。その後、全身に皮膚症状が出現したため精査を行ったところ、ニッケルアレルギーが確認されました。
ニッケルはステンレス鋼に含まれる代表的な金属の一つです。通常、ステンレス鋼は腐食しにくい素材ですが、酸性の液体が長時間接触することで、金属成分が溶出する可能性があります。本症例では、水筒から溶出したニッケルが、全身性接触皮膚炎の原因となった可能性が考えられました。
ニッケルアレルギーというと、ピアスやアクセサリー、時計などが皮膚に触れることで起こる「かぶれ」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、ニッケルアレルギーのある方では、ニッケルを口から摂取することで、全身に皮膚症状が出現することがあります。これを「全身性接触皮膚炎」と呼びます。
今回の報告は、普段何気なく使用している水筒が、ニッケルアレルギーをお持ちの方にとっては、思いがけないニッケルの曝露源となる可能性を示したものです。
では、ステンレス鋼製の水筒は使わないほうがよいのでしょうか?
今回の報告は、「ステンレス鋼製の水筒は危険」ということを意味するものでは全くありません。ステンレス鋼は一般的に耐食性に優れた素材であり、日常生活で広く使用されています。
一方で、ステンレス鋼製の水筒に酸性飲料を入れて持ち運ぶことは、金属成分の溶出という観点から避けたほうがよいでしょう。酸性飲料を持ち運ぶ場合には、その飲料に対応した容器を使用することをおすすめします。
また、水筒の内部に傷やサビなどがある場合には、金属成分が溶出する可能性が高くなるため、使用を続けず、買い替えを検討することも大切です。
原因のはっきりしない皮膚症状が続いている場合には、身の回りの製品や飲食物だけでなく、環境、季節、花粉など、日常生活の多様な要因が関係していることがあります。皮膚疾患の原因は一見しただけでは分からないことも少なくありません。当院では、症状の経過や生活環境などを確認のうえ、さまざまな可能性を考えながら、適切な診断と治療につなげられるよう努めております。
当院では、外来で対応可能なあらゆる皮膚疾患に対応しております。
ダーモスコピー(皮膚科医が用いる拡大鏡)、エコー(超音波診断装置)、採血、皮膚生検(病変部を一部切除し、顕微鏡検査で病理を確認する。確定診断に最も有用)等の検査を用いた正確な診断、内服(飲み薬)、外用(塗り薬)だけでなく、手術、レーザー治療、光線療法、分子標的薬、様々な処置(局所注射や穿刺、縫合、液体窒素、削り、巻き爪矯正 等)を組み合わせた、最善の治療の提供に努めております。
皮膚に生じたお悩み事がありましたら、お気軽にご相談ください。
早川道太郎 (皮膚科専門医 がん治療認定医)


